まち歩きの新しい楽しみ方
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日暮里駅にほど近く、看板建築の連なる御殿坂に立つスターバックスの新店舗です。常滑で制作した特注タイルで覆ったファサードは隣地の「中野屋」ほか周囲の看板建築と軒や窓の高さをそろえ、「中野屋」との間に店舗入口へ続く路地アプローチを設けています。谷中に点在する寺社と町家の「まんじゅう構造」を活かすことで、北西に隣接する「経王寺」の植栽や本堂を借景とし、街路の賑やかさと寺院の静寂というこの町の2面性を体験できる建築としました。



今回の敷地の面する御殿坂は看板建築が多く残る道です。看板建築とは関東大震災後の復興期に東京を中心に多く建てられた、木造町家の正面をモルタル・銅板・タイルなどで覆い洋風の装飾的ファサードを与えた建築です。後に建築史家 / 建築家の藤森照信さんによってそう名付けられました。このころの銀座や日本橋などに建った立派な西洋風建築に憧れつつ、身の丈の木造との折り合いをつけながら工夫していた姿が微笑ましく可愛らしいので、街中に時折残る看板建築を見つけると嬉しくなります。
とりわけ今回の敷地お隣の佃煮の中野屋さんはまさに関東大震災のあった大正12 年創業で、この通りには大正・昭和・平成の看板建築が勢揃いしています。そこで、今回の建築は令和の看板建築となるべく、切妻屋根の木造二階建ての建物の正面に「看板」を設えています。看板建築の看板はそれぞれ店の特徴を表現する趣向を凝らした意匠が楽しいですが、今回は常滑のやきもの工房さんにご協力いただいて特注のタイルを張りました。一枚一枚釉薬を掛け流し、偶然できる形をそのままに焼き付けています。素地の色と釉薬の色/有無の組み合わせで生まれる 5 パターンのタイルをランダムに張っています。遠くで見た時と近くで見た時の印象に違いができたり、雨の日にタイルが濡れるとまた表情を変え、釉薬が空を反射したり路地の奥の光を導いたりするのも魅力的です。当然スターバックスのコーポレートカラーも意識しつつ、町並みに馴染む色を試行錯誤しました。お隣の中野屋さんとは看板高さ、窓の高さなどを揃えていますが、内部空間では階段の踊り場を道路側に位置させる平面構成とも関係しています。中野屋さんとお揃いのオーニングは黒にしてブラックエプロンになぞらえています。東側は看板建築の種明かしのつもりで、木造に付与したファサードの薄さを垣間見ていただけますが、いずれ隣地にまた看板建築が建ち連続することで街並みが繋がっていきます。今はどんどんその数が減っていってしまっている看板建築ですが、貴重な文化資源としてなんとか残ってほしいと願っています。








谷中・日暮里の町は、実は「寺と町家の関係」でできています。この構造を「まんじゅう」に例えることがよくあります。とくに谷中は寺町で、70 以上の寺院が集まっています。なぜこんなに多いかというと、江戸時代に徳川家の菩提寺である寛永寺が江戸城の鬼門、うしとら(北東)を守るために上野の山に建立されたのをきっかけに、明暦の大火などの大火事の機会に神田などから寺院が次々移転してきたためと言われています。寺院ができると墓参りの客が増え、茶屋や見世物小屋ができて当時の江戸の際だった谷中への墓参りはちょっとした庶民のレジャーだったそうです。(今もそうですね)都市構造としても自然と寺院境内のキワに貸家や商家が建てられることになり、まんじゅうのあんこと皮のように寺院のまわりを小さな町家が囲う形式が点在していきます。谷中の町を歩いていると道からは間口の狭い木造町家が賑やかに並んでいるように見えますが、一歩裏にはいると静かな寺院の境内が大きな空を湛えている光景によく出会います。これは同じく寺のキワに建つ僕らの運営する最小文化複合施設 HAGISO でも共通して体感できる特徴であり、この表と裏のコントラストが寺町である谷中・日暮里の都市構造的な魅力です。
今回の敷地もまさに歴史ある経王寺の境内に面しており、表と裏の印象がガラリと変わります。この印象をグラデーショナルに感じてもらうために路地アプローチとし、室内では境内の植栽や伽藍を借景とさせていただくような大きな窓を設けています。特に二階は、初めてお越しいただいた方は思わず声を上げてしまうこと間違いなし。まちの賑やかさと寺院の静寂さ、あるいは生者のための空間と死者のための空間という、この町の都市構造がもつ二面性を一つの建築の中で体感していただけると思います。





この建築には通りに面した入口がありません。むしろ入口そのものが見えないわけですが、入口は隣の中野屋さんとの間の路地を進んだ先にあります。谷中周辺は太平洋戦争時の空襲の被害を受けてはいますが、焼夷弾の被害が少なかったことから戦後の区画整理が行われておらず、戦前の街路空間が多く残っています。このような親密な路地空間の体験を今回の計画にも引用しています。
ポストモダンを代表する建築家Robert Venturiらは『Learning from Las Vegas』( 1972)でモダニズム建築を「DUCK(あひる)」と呼んで批判しました。その対比として彼が評価したのが「Decorated Shed(装飾された小屋)」です。看板建築はまさにこの「Decorated Shed」そのものです。しかし、今回は看板を単なる記号的要素に留めるのではなく、奥行き方向に曲げて路地に沿わせることで路地空間をつくる空間要素としても寄与させています。さらに、折り曲げた路地看板を建物本体の切妻屋根が突き破って軒下空間をつくることで、単純な表と裏の構図を部分的に破綻させ複合的な関係性を生みだしています。
また、路地アプローチは生まれてしまうであろう購入待ちの行列をなるべく通りに出さず敷地内で収めることに一役買ったり、季節感を感じられる屋外のベンチはペットの散歩の途中に寄っていただくときの居場所にもなります。このような路地空間を敷地内に作って街路を延長させていく手法は僕らが谷中ですでに設計・運営している施設 TAYORI や asatte などで繰り返し試みてきました。表層的・均質的な都市空間よりも、ちょっと勇気をもって歩んでいく先に思いがけない出会いがある都市、奥行きのある都市のほうが豊かなのではないかと思っています。
路地には植栽の彩りや親密な街路の演出が必要ですが、今回はご近所にお住まいでもあるランドスケープデザイナー安西一憲さんにご協力いただいています。経王寺の豊かな緑に連続するような植栽を時間をかけて育てていく視点で取り組んでいただきました。




今回の店舗では我々は主に建築と外構の設計を担当しましたが、インテリアデザインはスターバックスのデザインチームによるものです。とはいえ計画の初期から本当に沢山議論を重ね、互いの専門領域にリスペクトをもちつつ遠慮せずアイデアを出し合う関係が作れていたと思います。とりわけインテリアに決定的な影響を与えているのが木構造です。
構造設計はご近所・根津に事務所を構える坂田涼太郎さんと協働しました。間口が狭く奥行きが深い町家的な切妻屋根建築を原型としつつ、奥にいくと敷地が広がることから架構が二股に分かれていきます。1 階はその奥行きを感じられるように、集成材による門型フレームが敷地の広がりに合わせて曲がりながら連続していく意欲的な構造としています。準防火地域に建つ木構造の多くは不燃材によって隠蔽されがちですが「燃えしろ設計」といって火災時に木材の表面が燃えて炭化しても、内部の燃え残った断面で架構を支持できるよう、あらかじめ部材を大きく設計する手法により、門型フレームや屋根の梁部材を木のまま現すことを実現しています。
2 階は切妻の屋根形状に合わせた勾配天井とし、時折せり上がった屋根のハイサイドライトから柔らかな光が降り注ぎます。この構造の作る奥行き感、広がり感に呼応するように、奥の窓の緑を反射しながら室内に引き込む黒い床や、反復する2階天井の竿縁、細やかな床の段差に合わせて家具化する床仕上げなどが決定されています。







切妻屋根の単一ボリュームから,途中で別の切妻が分岐したような形状は,架構を構成するうえで大きな手がかりとなった。同時に,この空間において架構が果たすべき役割を模索した。当初は耐力壁のみの配置で検討を進めていたものの,1階の二つの妻面は開放的であったため,各妻面に平行な門型フレームを配置し,さらにそれらを放射状に連続させることで,人を迎え入れるゲートのような構成とした。2階へ上がると,二方向に大きな開口が現れる。その視線の方向に合わせ,屋根の稜線に沿って桁梁と柱を設けた。 これらのフレームは,表の看板から,隣地の境内を望む視界へと人を誘う仕掛けとして機能している。(坂田涼太郎)

下町の風景を継承し、建物外構には路地を想起させる縁台を思わせるベンチの配置や既存ブロック塀の再利用により、街並みとの関係性を創出している。植栽計画は、地域を彩る植物や隣接する経王寺の既存常緑樹との連続性に配慮し、街なかで親しまれてきた植栽種や在来種を中心に構成。四季の彩り、日照条件、限られた植栽スペースを考慮して選定した。また、近隣居住者の利用も視野に入れ、駐輪にも対応可能なスペースを確保し、日常に開かれた場としている。(安西一憲)
客席は暖かい色温度で寛ぎを、アートは白色光でその魅力を引き立て、それぞれの役割にふさわしい光環境を両立している。さらに、過度な抑揚を抑えた配光を設えて、陰影を柔らかくしつつ、調光制御による一日の移ろいが、アートと共に過ごす情景に、心地よく豊かな変化を生み出している。(須方宏明)

| 竣工 | 2026年3月 |
| 設計期間 | 2024年11月〜2025年9月 |
| 施工期間 | 2025年10月〜2026年3月 |
| 所在地 | 東京都荒川区西日暮里・近隣商業地域・第二種中高層住居専用地域 |
| 用途・規模 | 飲食店・木造2階建て |
| 敷地面積 | 221.28㎡ |
| 建築面積 | 160.86㎡ |
| 延床面積 | 299.24㎡ |
| 種別 | 新築工事 |
| クライアント | スターバックス コーヒー ジャパン |
| 意匠設計 | HAGISO (宮崎 晃吉、久保田啓斗) |
| 内装設計 | スターバックス コーヒー ジャパン |
| 構造設計 | 坂田涼太郎構造設計事務所(坂田涼太郎、太田原ナヴィッド崇秀) |
| 外構計画 | 安西デザインスタジオ(安西一憲) |
| 照明計画 | LightRange(須方宏明) |
| 建築施工 | 栄伸建設(佐藤弘一、宮﨑礼男、棚橋秀一) |
| 内装施工 | ジーク(木下貴寿、本千紘、髙橋萌夏) |
| 特注タイル制作 | やきもの工房(伊藤愛、芦澤忠) |
| アート企画 | ArtSticker(運営:The Chain Museum) |
| 写真 | 特記なきもの:スターバックス コーヒー ジャパン 展示作品が写っているもの:Ryo Yoshiya 模型・図面資料:HAGISO |
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