心も体も切り替わる、日常と非日常の中間地点
クラフトビールとソーセージのお店「THE DAY east tokyo」は 、神楽坂で人気のワイン食堂「神楽坂ワイン食堂ビストロ Entraide」や「神楽坂ワイン食堂イタリアン Terzo」を経営する株式会社HATARAKUの新店舗として企画されました。
この神楽坂のお店の常連客であるリブコデザインカンパニー代表の栗山彰さんのご紹介がきっかけで、わたしたちが店舗内装を携わらせていただくことになりました。
浅草の日常の顔
この新店舗企画を主導するのは、当時「Terzo」の店長を務めており代表の伊藤清孝さんに絶大な信頼を置かれていた長谷川将人さん。長谷川さんはもともとプロスノーボーダーの経歴をもつ多才な人ですが、なんと浅草の人力車の車夫として働かれていたこともあるとか。そのため、新しい店舗は蔵前〜浅草界隈でとの思いを強くもっておられました。
物件選びの段階から下見に同行させていただき、不動産屋さんが見落としがちな既存設備の状況や建築基準法上の懸念点も助言させていただきながら、ついに見つけたのがこの浅草駅のすぐ北側。隅田川にほど近い区立浅草小学校の裏手の通りに面したこの物件でした。このあたりは、観光地としての浅草の外向けの顔のちょっと裏側、奥浅草や観音裏と呼ばれる地域に住む人たちが浅草駅にむかう道筋で、浅草の日常が垣間見れるエリアです。
面白い物件であるものの、いくつかの解決しなければならない課題も抱えた物件でした。ひとつは間口の狭さとそこに嵌まるフィックス窓による閉鎖的な外観。もうひとつはそこに鎮座する空調室外機。
飲食店のパブリック
浅草ではありますが、将人さんのやりたかったのは地元に暮らす人のためのお店。暮らしている人のことを考えると、個性的なクラフトビールと毎日仕込むできたての自家製ソーセージが楽しめるお店が、自分の住む街にできるだけで幸せなのですが、コアなビール好きの大人のためだけのお店というよりは、子供からお年寄りまで、「ちょっと寄ってみたよ」と声をかけてもらえるようなお店ならより素晴らしいだろうな、と想像しました。
そのためには、通常のお店よりももっとパブリックな空間を道に対して作っていくことが肝要です。模型を使ってどのような店の「ファサード」のありかたならそのようなパブリックさを実現できるか、検討を重ねました。
現地に再び実際に訪れてみると、道の向かいの小学校が連続する緑地を借景として提供してくれていることに気が付きます。散歩の途中のおじいちゃんが、店先のベンチに腰掛けてこの緑を眺めながらちょっとした休憩をとっている光景が目に浮かびました。そこで、内外を完全に開け放てる建具を備え、お店の中からも外からも座れるベンチを入り口に据える計画としました。
飲食店の顔とも呼べるファサード周りを整理するため、既存の室外機は一旦撤去したうえで、建物屋上に新設。既存の建具のガラス開き戸とフレームのみ利用することでコストを抑えつつ、木建具と造作ベンチでファサードを作っていきます。
まちに開かれたビアスタンド
ベンチとともに備えられた建具は、最終的には安全面とコスト面から左右に開く木製の折れ戸としました。下枠の上端をベンチ座面と面で収めることで開いたときの枠の印象を消しています。
内部はまずスタンディングのカウンター席。その正面はウォークイン型の大型冷蔵庫に8種類のタップが接続されており、個性豊かで新鮮なクラフトビールが楽しめます。タップ棚上部壁面は黒板塗料で仕上げることで日々変わるビールの名前を知らせることができます。この黒板塗料の色は特に将人さんと検討を行い、結果的に目の前の小学校の緑の色を用いた形となりました。
基本的に造作される家具はすべてラワン合板にクリア仕上げとしていますが、タップの壁面のみガルバリウム鋼板を貼り付け、メンテナンス性への配慮とともに、経年による素材の変化や反射による奥行き感をもたせています。外部の小学校の緑が浅く店内に反射されることも意図しています。
一部の店内壁はもともとの石膏ボードを剥がしたときに現れてくるボードを固着させるためのGLボンドの跡をそのまま残したり、天井を降ろした際に現れた、既に白塗りされていたコンクリートスラブのまま残したりと、仕上げ過ぎないことを仕上げとすることで、親近感のある雰囲気をつくることを企図しました。
ビールタップ前のスタンディングカウンターと厨房前のカウンターは、スタッフとお客さんの関係性がフラットになるよう、段差のない設えとしています。特にスタンディングカウンターは、独立的な様相とすることで、一つの大きなダイニングテーブルをみんなで囲むように使うことができます。
概要
竣工 | 2019年11月 |
設計期間 | 2019年6月〜2019年9月 |
施工期間 | 2019年9月〜2019年11月 |
所在地 | 東京都台東区花川戸 |
用途 | 飲食店 |
構造 | 鉄筋コンクリート造 |
規模 | 地上3階 |
延床面積 | 46.32㎡ |
種別 | 内装設計 |
体制
クライアント | 株式会社HATARAKU |
内装設計 | HAGI STUDIO(宮崎 晃吉・児林幸輔) |
サイン・グラフィック | リブコデザインカンパニー(栗山 彰) |
施工 | SUPREME HOUSE(淺野 雄太) |
写真 | 千葉正人 |
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