期間限定のクレープ屋
東京谷中の小さな路地の端っこに、ひっそりと佇む飲食店の設計。飲食店といっても単なる飲食店ではない。私たちの運営する各店舗のセントラルキッチンであり、新たな食のアイデアを生み出すための工場である。さまざまな設備を備えた厨房空間を中心に、町とつながるためのジェラート屋とアイデアを実践していくためのチャレンジショップの併設を求められた。店舗のネーミングとなったasatteの考え方を後押しするように、固定観念に縛られない設計をしたいと考えた。
初めて現場を訪れた去年の春、設計に先行して既に建物内部の解体が始まっていた。既存建物は、典型的な切妻屋根の下に、続き間の部屋が2つと増築された小屋が一つ、外装は杉板と板金で継ぎ接ぎされ、弁柄色に塗られた可愛らしい佇まいの住居。南側には大家でもある宗林寺の墓地に隣接した庭があり、小さいながらも谷中らしい風景を望むことができる。また、建物が南北に長いため、南側の庭から差し込む光が唯一建物内を明るく照らしており、その光の差し方が庭の景色と相まってとても印象的だ。設計の手がかりが見出しにくい状況の中で、私たちは、リノベーション特有の既存を尊重したつくり方でもない、文脈を一切無視するようなミニマルなつくり方でもない、新たな構成の仕方について考えた。
今回の設計で重要だったのは他者性である。ノープランのまま現場に行き、既存の状態、周辺環境との関係性、施主要望のカラーリング、大工の知恵、スタッフからのリクエストなど、あらゆるアイデアやキャラクターを一度同じ食卓に載せ、少しだけ調味料を加える程度のチューニングをする。例えば、2つのアールが連なった洞窟のような厨房、既存の石塀のブロックをくり抜いた内照式サイン、意図せずイタリアカラーとなったジェラートの内装、裏手の卒塔婆と呼応するような杉塀。何もかもが多様化しつつある時代の中で、それぞれの個性がピュアに現れていく風景を思い描いた。
たった12坪の建物で工事期間は半年以上。この長い時間をかけた一品生産的な設計の進め方が、結果的に自分たちでは想像もしなかった風景を生み出したのではないか。この建物が、asatteのこれからの挑戦を応援する存在になれたらと思っている。
設計担当:村越勇人
概要
竣工 | 2021年12月 |
設計期間 | 2021年4月~2021年8月 |
施工期間 | 2021年4月~2021年12月 |
所在地 | 東京都台東区 |
用途 | 飲食店 |
構造 | 木造 |
規模 | 平屋 |
敷地面積 | 74.83㎡ |
建築面積 | 39.01㎡ |
延床面積 | 39.01㎡ |
種別 | リノベーション |
体制
クライアント | 宗林寺 / 自社運営 |
設計 | HAGISO(宮崎 晃吉・村越勇人・田坂創一) |
サイン | ROWBOAT(田中裕亮) |
施工 | クラフト |
植栽計画 | クロダデザイン |
写真 | Yikin Hyo |
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