
境界をゆらめかせる浮かぶ島のようなコーヒーショップ
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台東区・上野桜木、言問通りから1本入った静かな街かどに佇む1920年(大正9)建造の石場建て木造住宅です。庭の桜、座敷をL字に囲む心地よい縁側などが人々を惹きつけ、たくさんの縁を結びつけてきた愛らしい建物。持ち主の更新に伴い解体の危機に危ぶまれたものの、たいとう歴史都市研究会をはじめとする保存の呼びかけもあり、建物の文化的な価値に共感された新たなオーナーさんに奇跡的に出会い存続することとなりました。2024年12月に登録有形文化財にも認定された貴重な建物です。
現在、HAGISOでは建物の保存改修計画とともに、地域・過去・未来と繋がる活用計画も進めています。
限界耐力計算による構造補強と断熱改修を行い、次の100年へ安心して引き継げる建物とするほか、既存の材料や環境的条件を再利用し、文化財活用の可能性を高める改修を計画しています。また、引渡し後の使い方のご相談、改修中の見学・参加型企画など、より広く桜縁荘のことを知っていただく方を増やしながらプロジェクトを進めるお手伝いをしています。
※見学会や参加型企画の内容は改修工事のスケジュールに合わせて順次公開していきます。
桜縁荘の改修施工をいよいよ今春から計画しています。改修後は地域に開かれた使われ方を模索しており、家主さんだけでなく多くの応援が必要です。
本格的な改修工事が始まる直前であり、桜縁荘の桜が咲き誇るこのタイミングに、プロジェクトのことを知っていただく機会として見学会を開催いたします。
🌸開催報告🌸
お陰様で、総勢56名の方にご来場いただき、参加費16万8000円、森まゆみさんに寄贈いただいた地域雑誌「谷根千」27冊の売上寄付分13500円、合計18万1500円を集めることができました。
この資金は改修工事に大切に使わせていただきます。また工事途中にも、安全を確保したうえでの見学会、ワークショップなどを企画してまいりますので、引続きよろしくお願いいたします。ご参加いただきました皆様、ありがとうございました。
※改修プロジェクト関係者のご紹介・いただいたメッセージを掲載していきます。
桜縁荘と出会ったのは、2023年の春。桜が散って緑陰が濃くなってきた頃でした。庭に足を踏み入れたとたん、何とも言えない懐かしさと、凛とした空気に魅了され、陰翳礼讃という言葉が似合う家だなあと感銘を受けました。町の人たちに愛され、演奏会、展覧会、お話会なども開催されていた小さな家。花が咲き、木漏れ日が躍る庭には、いつも笑顔があふれていたそうです。100年以上残ってきた家を、次の100年へ。私たちは、この愛らしい場所を未来につなぐリレーの走者なのだと思います。みんなのまちの縁側を、子どもたちの世代に残すため、たまたまバトンを受け取った、不思議なご縁にワクワクしています。次のランナーにバトンを渡すまで、地域のみなさんと力を合わせてまいります。
台東区界隈に広がる歴史的な建造物や道、路地、井戸、稲荷、自然環境や生活流儀、文化活動がつくる「歴史的生活文化」を活かしたまちづくりを進めるため、2001年に発足した特定非営利活動法人「たいとう歴史都市研究会」。
活用計画・設計に先立ち、桜縁荘(旧唐木田家)の来歴の調査、歴史的評価のほか、調度品の保管や登録有形文化財の登録に邁進されました。設計フェーズでは歴史意匠アドバイスを現場フェーズまで伴走いただきます。桜縁荘が売りに出されて解体が危ぶまれたとき、最初に情報発信を行ったのがたいとう歴史都市研究会でした。
「次の100年へつなぐ改修を」最初の打合せで伺った新オーナーの一言から、今回の改修プロジェクトはただ活用計画をして整備改修するだけでなく、地元のネットワークによる継続的な維持環境をつくること、そのための新たな人脈も編み込む方針が決まりました。
既存状態の基礎調査から施工まで一貫してお願いするのは、「谷根千工房」川原温さん。木造建築の大工として20年近く、高野山や出雲大社など各地の文化財修復や新築工事に携わっておられた他、フランスの日本建築の修復や、ブラジルやロシアでの茶室などの新築、カトマンズの寺の新築、2023年には谷中墓地の入り口の花重の明治初期の登録文化財の改修に参画されました。
桜縁荘の顔になる庭の再生計画は、谷根千のお寺や民家の作庭を数多く手掛けている正木覚さんにお願いしています。初回のお打合せから「不忍池につながる地下水脈を生かした環境づくり」をコンセプトに掲げていただき、桜縁荘と地域との関係性を物理的にも接続できる、プロジェクトにぴったりの庭づくりが始まりました。
日本ガーデナーズ協会の元代表で、代々木公園や校庭の緑化なども手掛けられる、土中環境改善の第一人者です。床下の通風、屋根を流れる雨水などの建築的条件を積極的に活用するほか、解体資材なども環境改善に活用いただき、「敷地からなるべくゴミを出さない」形で建物と一体になった環境づくりをご一緒させていただいています。
この地域は関東大震災も戦災も生き延びた古い家がたくさんあるのですが、経済優先でどんどんビルに変わり、かつての面影が失われています。一度壊してしまったら、もう二度と作れない貴重な建物が、なすすべもなく消えていくのをずっと見てきました。
ここ桜縁荘には、以前から何度も来ていましたが、前の家主さんが亡くなり、売却されたときはどうなるかと心配していました。千駄木の安田邸などはナショナルトラストに寄付するという形で残していただき、公開もしていますが、行政の力でできることには限りがあります。こちらは更地になる寸前に、奇跡的に新たな家主さんが現れて残ることとなり、感謝、感謝です。
大改修には長い年月と多くの資金が必要です。これからHAGISOの宮崎さんはじめ、地域の仲間たちでこれを残し活用すると聞いて、この資材や人件費が高騰する折、施主も、建築家も職人も泣くことがなく、最後まで仲良く走れるように出来ないか。住民として、私も遺してくれる方たちに感謝を込めてなにか協力できることを、という思いで、桜縁荘だから「桜縁団!」を結成しました。私が第1号です。みなさまにも物心両面で桜縁(応援)いただければと思っています。
2025年4月6日、上野桜木の桜縁荘へ。
かつて母親の実家があり、オレも幼少期から多くの時間を過ごしてきた上野桜木に、桜の木を抱く庭を持つ素敵な古民家があった。ガラス張りの廊下や大正時代の建具の技術が詰まった玄関など、それはそれは魅力的な建物で、この家の前を通るたびに上野桜木という土地が醸し出す文化の色気というか品のようなものを感じずにはいられなかった。
二年前、長年に渡り台東区でこういった古民家を保全し再生させてきた友人の椎原さんが彼女のFacebookにSOSの投稿を上げた。この古民家が売りに出され、取り壊しが既定路線になっているとのことだった。
「何かオレに出来ることはないか」
すがるような気持ちでこの建物への想いをツイートに託した。このツイートは急速に拡散され、想像以上に多くの方たちの元に届いた。そしてその中に、後に救世主となるご夫妻がいらっしゃった。この建物にもう一度命を吹き込んで、様々な人たちが集い楽しい出来事が起きる場所にしよう。そんなご夫妻の心意気によって、桜縁荘は取り壊されることなく、これからもこの地域の象徴的な場として残っていくことになった。
椎原さんの強い願いから始まったこの奇跡のような縁の一部になれたことは本当に嬉しいし、桜縁荘と共に人生を楽しんでいこうと心機一転されたご夫妻には感謝してもし切れない。これから桜縁荘は大改修を迎え、再び人々が訪問可能になるのはしばらく先になる。改修前の最後のお花見会には多くの訪問客の姿があったという。
オレもお花見会の翌日、仲間たちと一緒に花見客でごった返す上野公園を抜けて桜縁荘にお邪魔させてもらった。穏やかな日差しの中、年齢や国籍を越えて集まった人たちが笑顔で過ごしている様子を見て、改めてこの場所がこれからもたくさんの人たちによって愛されていくのだろうと実感させられた。改修中も、片付けや壁塗りなど古民家DIYのワークショップなどを通して、多くの人たちに関わってもらいたいとのこと。ぜひ桜縁荘のアカウント 桜縁荘 OENSO since 1920をフォローしてほしい。LINEのオープンチャットではその名も「桜縁団(おうえんだん)!」というグループで情報共有していくそう。
一年ぶりに桜縁荘の桜の下で皆さんにコーヒーを淹れさせて頂いて光栄だった。これから桜縁荘がどんな楽しい場になっていくのか、オレもワクワクしながら見守って応援していきたい。
帰り道で通った谷中霊園の桜並木も夕陽に照らされて息を呑むほどに美しかった。桜が繋ぐ人の縁の不思議さに思いを馳せながらオレは帰路に着いた。
竣工 | 改修中 |
設計期間 | 2024年5月〜2025年4月 |
施工期間 | 2025年4月〜 |
所在地 | 東京都台東区 |
用途 | 住宅 |
構造 | 伝統木造(石場建て) |
規模 | 地上2階 |
延床面積 | 約100㎡ |
種別 | 改修 |
クライアント | 個人 |
設計 | HAGISO (宮崎晃吉、久保田啓斗) |
構造設計 | 川端構造計画 |
外構計画 | エービーデザイン |
歴史保存 | たいとう歴史都市研究会(椎原晶子、渡邊尚恵) |
施工 | 谷根千工房(川原温) |
携わる人たち
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