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hanare まちかどインタビュー:BAR 星くず

hanare10周年の機会に、日頃からhanareがお世話になっているまちのお店にお話を伺いました。
普段からお店にお伺いしたり、hanareの話をしたりと親しくさせていただいていますが、改めてこうして時間をとってゆっくりお話を伺うのは、また特別な体験でした。お店の方々の思いや背景に触れることで、日々の関係がより豊かであたたかいものになったように感じます。
それぞれのお店に、それぞれの人生と物語がある。谷中に息づくたくさんの魅力的な存在に思いを馳せながら、ぜひ楽しんで読んでいただけたら嬉しいです。
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日暮里駅から歩いて3分、初音小路という小さなアーケードの入口に、あたたかな灯りをともす「BAR星くず」さんがあります。hanareのゲストが旅の夜を過ごす場所としても親しまれているこのバーで、今回は店主の栗田さんにお話を伺いました。

話し手:栗田泰教さん
聞き手:hanareマネージャー 大浦百子

BAR星くずのスタート・谷中の魅力

大浦:この場所、谷中でお店を始めたきっかけはありますか?

栗田さん(以下、栗田):なんとなく、谷中と肌が合う気がしてたんだよね。最初は23区どこでも可能性あると思ってたけど、特別この辺に関わってたわけじゃなくて。たまに通ると「なんかいい感じだな」って思ってたくらい。お店の準備はコロナ前からしてたんだけど、オープンしたのはちょうどコロナ禍のとき。コロナ禍では、ロックダウンで人が全然動かなくなって、それまでずっと大きな街で働いてたから、「ほんとに人いないな…」って。それで、「これからはローカルの時代になるんじゃない?」って思ったんだよね。コロナがなかったら、そんなふうには考えなかったと思う。最初のイメージは、中目黒とか世田谷、青山あたりに、新富町みたいなレコードバーをつくる感じだったんだ。実は。でも、コロナで我に返ったというか、軌道修正した。それで「ローカルっぽい場所ってどこだろう?」って考えたときに、皇居よりこっち側、神田とか上野、蔵前、谷根千あたりが浮かんできた。

とはいえ、ローカルならどこでもいいってわけじゃない。で、ある夜にたまたま谷中を歩いてたら、物件の張り紙を見つけたんだよ。夜中に。初音小路のことはあんまり知らなかったんだけど、雰囲気とか佇まいを見た瞬間、「あ、ここだ!」ってなった。心にガツンときたんだよね。それまで何件か物件見てたけど、どれもピンとこなかった。でも、あの張り紙見たときだけは違ったんだよ。

大浦:コロナがなかったら、今の星くずはなかったかもしれないんですね。谷中のことも、お店を始めてから知っていかれたと思いますが、実際にお店を続けていて、このまちにはどんな魅力を感じますか?

栗田:そうだね。昔はアパレル業界にいて、ずっと大きい街にいたんだよ。銀座とか渋谷、新宿、池袋とかさ。で、だいたい商業施設の中。そのときって、まち自体にはあんまり関心がなかったんだよね。買い物に行って、その店に行くだけで全部完結してた。「このまちってどんなところなんだろう?」なんて、考えたこともなかった。でも谷中に来てから、人とのふれあいの多さを感じる。お店をやってる中でもそうだし、それ以外の時間でもね。なんか、生活の一部としてお店がある感じがするんだよ。

大きい街って“非日常”みたいな雰囲気があるけど、谷中は“半日常”っていうのかな。お客さんにとっても、ちょっと寄り道したり、ふらっと立ち寄ったり、当初の目的で終わらない。そういう流れが生まれるまちだなって思う。

大浦:そういえば、私が星くずを初めて知ったのもすごく偶然で。当時hanareでバイトしてた時代、15時あがりの日に、なんとなく気分で日暮里へ帰る途中の道を曲がったら、「古着屋やってます」って手書きの看板を見つけたんです。それがBAR星くずでした。まさかBarだとは思わなくて(笑)あれが栗田さんとの最初の出会いでしたね。その後全身コーディネートしてもらって、超気に入って、全部お買い上げして着たまま帰りましたね。あの日は偶然だったなあ、でもなんか谷中っぽい出会いだなって思いました。

栗田:ああ、そうだったね。最初の出会いはあれか。いやあ、ありがたいねぇ。

星くずが大切にしていること・hanareゲストとの関わり

大浦:お店を続けるうえで、大切にされていることはなんですか?

栗田:うーん、簡単に言うと「寄り添う」かな。最初は、自分は音楽専門店だと思ってたんだよね。音楽好きが集まるレコードバーになると思ってた。お酒も少しこだわりのものを揃えてたし。このバーでは「この間、誰々のライブ行ったんだ」とか、ちょっとニッチな話をするイメージだった。シティーポップに特化したバーというかね。

でも、後から「そういうことじゃないな」って、使命感が変わった感じ。実際に蓋を開けてみると、お客さんはそういうことを求めてるわけじゃなかった。シュッと気取った人たちが飲んでるバーを作るようなイメージだったけど、実際は女性が一人で仕事帰りに来たり、カップルが来たり、海外の人が来たり…いろいろ。お客さんが求めていることは、結局「寄り添う」ってことだったんだよね。こっちが提供したいものを出すんじゃなくて、お客さんが求めているものに寄り添うって感じ。今はそれがすごくしっくり来ているよ。

大浦:なんだか、hanareと似ていますね。hanareのキーワードも「寄り添う」です。私もhanareで働く前は、ホテルのコンシェルジュになるつもりでした。ホテルって、旅行している人が夜寝る場所で、ベッドを貸す仕事だと思ってたんです。でも実際は、ゲストが求めているのは宿泊だけじゃなくて、「寄り添いたい」ということでした。ホテル業というより、ゲストの人生の一コマに関わって、話したり、まちを好きになってもらったり…。星くずとhanareの相性がいいのは、こういうところが共通しているからなのかな、と思うと嬉しいです。誰しもお店を始める前には理想像がありますよね。そこにこだわるのも素敵だけど、お客さんが何を求めているのかを感じて、変化させていくのも良さがありますね。

栗田:そうだね。hanareさんがあるから、それに気づけたんだと思う。HAGISOさんもそうだし。うれしいよ。

大浦:ありがたいです。ちなみにhanareのお客さんには、どんな印象をお持ちですか?

栗田:hanareさんのお客さんって、やっぱり外国の方が多いけれど、日本のことを深く知りたいと思ってる人がとても多いよね。寝るだけの施設だとは思ってないんだろうなって、お客さんからすごく感じるし、それを楽しんでるなって思う。買い物ももちろんあるんだろうけど、それだけじゃなくて、もっと文化的な知的好奇心を探求してる感じ。日本の文化を楽しんでるっていうかね。

大浦:同感です。おっしゃる通りで、うちはお客さんの9割が外国人で、毎日英語でチェックインをする日々です。インバウンドの増加には賛否両論あると思いますが、栗田さんはそれとどう向き合っていますか?

栗田:コロナ前は、外国人って爆買いのイメージもあったな。特にアパレル時代は。でも考え方はだいぶ変わったかな。星くずが外国人バーみたいになることを目指してるわけじゃないけど、別け隔てなく、いろんな人が心地よく交差して、生活の中にあるお店として、観光客と日本人が絶妙に交わる感じがすごくいいんだよね。だから海外の旅行客が来るのも大歓迎。

日本人も一生懸命話しかけるし、外国人も話す。そういうぐっとハマる瞬間があって、本当にいいなって思うことがたくさんあるんだ。

大浦:hanareも同じです。お客さんが谷中に溶け込めた瞬間って本当に嬉しいです。それがhanareの体験の良さでもあって、その中のひとつが星くずさんなので、日々本当にありがたいと思っています。

栗田:嬉しいよ。そういえば、俺、Duolingoやってるんだ、英語の勉強のために。この間、2周年だって言われて。洋服屋のときにはなかった感情だけど、星くずを始めてからは、もっとお客さんを知りたいし、星くずのことも少しでも伝えたい。だから、少しでも英会話を学ぼうってモチベーションになってる。まだまだ勉強中だけど。
あともうひとつ。外国人に日本のことを聞かれたときに、「あれ、日本人なのに答えられない…」ってなることがあるんだ。それで、日本のことももっと学ぼうと思うようになったし、一緒に日本の良さを考える機会にもなってるよ。

星くずのこれから

大浦:そんな星くずさん、これから挑戦してみたいことはありますか?

栗田:この店の雰囲気は今のままでいいと思ってる。でも、自分のお店っていう感覚はあんまりなくなってきてるんだよね。雇うって意味じゃなくて、いろんな人がBARやったり、スナックやったり、フレキシブルに人や空間が変わるのが面白いんだ。星くずはこれからもここにはあり続けるだろうし、このスタイル自体はそんなに変わらないと思うけど、中にいる人が出入り自由で、心に鍵のかかってないお店にしたいな。星くずっていう名前の通り、小さく輝きたいんだよね。ほのかな光を谷中に灯したい。

大浦:すごく素敵ですね。前もお伝えしたと思うのですが、私はhanareを退勤して日暮里駅に帰るとき、いつも無意識にちらっと星くずを見ちゃうんです。「あ、今日も光ってる。ふふ。」「星くず、良し。」って、安心して帰るんです。私も日々いろんな日があります。すごく楽しく働けた日や、うまくいかなくて疲れる日、余裕がない日も。でもそんな中でも、いつもポッと星くずが灯っているのが嬉しいんです。

栗田:ありがたいな。それでいうと、谷中のすごくいい場所に、HAGISOさんやhanareさんが中心にあってくれるのも、僕はすごく嬉しいんだよね。

谷中やhanareのこれから

大浦:これからの谷中やhanareに、どんなことを期待していますか?

栗田:まちのことについて言うと、谷中って変わっていないようで、ゆっくりと変化している気がするんだ。その感じがいいなと思う。いい感じの代謝が起きてるっていうか。もちろん、古い町並みが少しずつなくなってマンションが建って、寂しさを感じることもあるけど、「あ、ここ新しいお店だ。いい人が入ってきたな。雰囲気いいじゃん。」っていうこともある。変わらないまちだけが魅力じゃない。ゆっくり、静かに変化していく谷中っていいよね。新しい人が入るのは喜ばしいことだと思う。

hanareさんに関しては、ももちゃんやななちゃんが、チェックインしたお客さんを宿へ案内したり、まちあるきツアーをしていたりして、よく自転車の僕と遭遇するよね。

大浦:ほんと、よくお会いしますよね!

栗田:あの姿がいいんだよね。もう宿じゃないじゃん、あれって。それ以上のこと。普通は玄関やロビーまでで完結するだろうけど、hanareさんはまちまで一緒に寄り添うでしょ。それに価値を感じるんだよ。知らない人が見たらわからない光景だろうけど、泊まった本人たちは一生語ると思う。

大浦:栗田さんみたいに、見ていてくださる方が一人でもいることが、とても嬉しいです。

栗田:ももちゃんたちが案内しているときにすれ違うと、今日も嬉しいって元気が出るんだよ。あれは良い光景だよ。見てる人はちゃんと見てると思う。

hanareへのメッセージ

大浦:ありがとうございます。最後に、10周年を迎えるhanareに、一言お願いします!

栗田:まずは本当におめでとう。うーん、なんか思うことたくさんあって、うまく言葉にできないけど、やっぱり、まちですれ違うときに思うんだよね。この姿がこれからもずっと続けばいいなって。泊まるゲストのために、これからもhanareさんらしくやってほしいなと思う。hanareさんはこのまちの文化を繋ぐキーパーソンだと思ってる。谷中の魅力を伝える、玄関口のような宿だよ。これからもよろしくね。

大浦:これが成り立っているのは、もともとあるまちの良さのおかげです。なので、このまちと、それぞれお世話になっているお店には特に感謝しています。これからもよろしくお願いします。

栗田:そもそも、こうやってインタビューに呼んでくれたことが嬉しいよ。日頃、ももちゃんたちへの感謝を伝える機会もなかなかなかったからさ。僕からすると、自分もhanareの従業員のひとりだと思っているよ。

大浦:私達も、星くずさんはhanareの一員だと思っています。これからのたくさんの方々に谷中の魅力を伝えられるように精進します!

取材場所:BAR 星くず

【店名】『BAR星くず』
【住所】東京都台東区谷中7-18-13
【電話】080-5169-5128
【営業時間】18時-24時
【定休日】月
【アクセス】JR日暮里駅西口から徒歩3分
※チャージ料金500円別

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