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山岳エリアと市街地エリアの中継地点としての公園

茨城県笠間市に位置する愛宕山は、隣接する鐘転山や難台山を抜けて吾国山に至る、複数の山岳縦走コースの入口として知られる。この愛宕山に隣接するあたご天狗の森は、天狗伝説と桜の名所として地元の人々に親しまれるほか、都心から1.5時間でアクセスできること、100台超の駐車場を持つことから、コロナ禍を経て森林浴やハイキングの山岳拠点としても注目を集めてきた。

われわれは、計画当初から本公園を「心も体も切り替わる中継地点」と位置付けた上で、建築、斜面、遊具、工芸品、グラフィックデザインまであらゆる領域を駆使して環境の魅力を引き出し、地域住民の憩いの場と、山岳アクティビティを中心とした観光拠点の2つの役割を両立させることを目指した。

山岳アクティビティを最大化する3棟の建築と開かれたテラス

公園全体の拠点となる建築は、既存テラスを共有した方形屋根のA棟と切妻屋根のB棟を改修し、これに連なる形で鉄骨造のC棟と円弧テラスを加えた、3棟構成の計画である。

A棟には山岳案内の情報を集約するまとまったスペースと、ハイキングの帰りに汗を流せるシャワーテラスを設えた。既存基礎から木製方杖で持ち出したステンレス貼のシャワーテラスからは、市街地を飛び越えて地平線とダイレクトに対峙することができる。B棟は県内外からの会議・研修といったワーケーション、地域のサークル活動、展示などに利用できるワークショップスペースとし、予約利用のない通常時はカフェ客席となる。公園で使えるキャンプ椅子やランタンなどの貸出を行うため、既存の軒下空間に鋼製建具を設える簡易な操作でレンタル備品庫とした。増築C棟では軽飲食の厨房を設けて休憩所としての機能を拡張した。9席の室内席のほか公園の一部として常時出入りできる円弧状のテラス席を設け、既存テラスとの通り抜け動線を設けている。

従来の山頂公園としての魅力に加え、建築に滞在のきっかけやアクティビティを増幅する役割をもたせたことで、山岳アクティビティの幅が広がり、更なる魅力発見に繋がるものと考えている。

斜面における最小限の環境介入

増築したC棟は斜面地に建つ平屋建ての鉄骨造であるが、1階を境に架構が大きく変わる。
斜面から1階床下までは150角の角型鋼管の柱とブレースを配置した。1階には鉄骨片持ち梁によって支持された円弧状のテラスが、斜面上に最大3.64mオーバーハングする。一見転倒しそうなほど不釣り合いにみえる形態だが、室内は駐車場側に1.82m片持ちとなっており、さらにRCスラブは室内にのみ配置されている。一方テラス部分は軽量なデッキのため、重心が建物の中心に一致した安定的な構造となる。1階より上部はブレース構造である。特に客席カウンター前のフレームは、眺望に向けた全面開口とするために腰壁部分にのみブレースを配置し、その上部は片持ち柱として面内方向の水平力を負担している。切妻屋根は桁方向に5本並べたH-125×125によって、最大7.28mスパンと3.64mの跳ね出し部分を支持している。また、H 鋼の下部で垂木 45×90@303 をビスによって吊ることで、H 鋼の存在を消し 垂 木 の み が 見 えるようにした 。(坂田涼太郎)


斜面に載る基礎形状を小さくして土壌への負荷を最小限としつつ、上層では大きく張り出したテラスが斜面の上である立地とあいまって浮遊感を与えている。また斜面とのバッファとなる下層を良好な空調機環境として活用した。
なお、A棟に増設したシャワーテラスも既存基礎から方杖で持ち出し、斜面との接触を避けている。

斜面という環境を遊具にする

眺望の広がる斜面側では、建築側の円弧テラスと呼応させながら居場所を点在させ、公園全体でのアクティビティの連動・誘発を意図した。従来のように遊び方が定まった公園遊具ではなく、斜面という環境の中で発見的な遊びが生まれることを期待し、ここでも最小限の介入を意識している。


地面から跳ね出したウッドデッキではカフェで購入した軽食を食べたり、レンタル椅子を持ち出して景色を眺めることができる。約100mの既存ローラーすべり台は修繕に加え、その帰り道も楽しめるよう丸太ステップに着彩をして配置した。斜面に埋め込んだゆったりすべり台は、より幅広い年齢層の子どもを対象とする。色彩のなくなる冬季にも遊びのきっかけが生まれるよう、樹木の幹に伸縮性のカラーテープを巻付けることで景観要素の1つとした。これらの要素を視覚化しより親しみやすい開かれた公園とするために、グラフィックサインを製作した。

笠間の工芸と素材の結節点としての建築

観光振興の一環として、地場産業の製作加工者と協業して、笠間市にまつわる素材の新たな可能性を開くことを試みている。食器・雑貨のデザインに定評のある笠間焼は屋根形状を模したオリジナルの陶板タイルやランプシェードとして、重厚な外壁材や敷石などに使われることの多い稲田石は薄く軽やかに浮かせた曲面天板として実装している。さらに地場産材である八溝杉、県産ヒノキを屋根やウッドデッキ材として随所に適切に用いた。
さらに、それぞれの加工技術やテクスチャが際立つよう、透明な保護塗料のみを施した材同士をドンとぶつける土木工事のような簡潔な納まりで部材同士を付き合わせた。これにより長期的な修繕に対して地元の個々の職人の出入りのみで維持整備がしやすいだけでなく、土木業者による公園工事との一体感も意識している。
色彩計画には木材や陶板、コンクリートなどの茶~灰色系の色彩の中に、「笠間レッド」と呼ばれる神社や鋼材の錆止塗装に近似した朱色をアクセントとして用いた。

グラフィックデザイン

心も体も切り替わる中継地点としての魅力をひろく伝えるため、グラフィックデザインを制作設置した。ATAGO FOREST HOUSEの施設ロゴは、山頂の爽やかな風を受ける3つの屋根形状のほか、愛宕山に連なる難台山、吾国山の3つの山の姿も重ねた。
園内に設けたエリアマップには、計画した建築や遊具のほか、斜面から見える景色、周辺施設、山岳案内のイラストを円弧状のステンレス盤内に網羅している。全体鮮やかな色を使いや丸みのあるイラストから子供っぽさを感じられ、歩行者通路の縁石に接して設置したことで、老人や子供も一緒に見やすいサインとなった。

ATAGO FOREST HOUSEの施設ロゴ
エリアマップ
パンフレット

概要

竣工2024年3月
基本計画2021年12月〜2022年3月
設計期間2022年6月〜2023年3月
施工期間2023年8月〜2024年3月
所在地茨城県笠間市
用途公園、休憩所、飲食店
構造既存:木造、増築:鉄骨造
規模地上1階
延床面積94.10㎡
種別リノベーション

体制

クライアント笠間市 観光課
設計HAGISO(宮崎晃吉、田坂創一、久保田啓斗)
グラフィックデザインHAGISO(朱則安、末吉祐太)
構造設計坂田涼太郎構造設計事務所(坂田涼太郎)
機械設備MOCHIDA建築設備設計事務所(持田正憲)
電気設備大瀧設備事務所(大瀧牧世)
ランドスケープ風景堂プランニング(横川洋也)
照明計画大好照明(大好真人)
協力石川初、新堀学、高瀬幸造
施工(建築)大枝建設(大枝輝生)
施工(公園)柴山土建(柴山正之、長谷川厚生)
笠間焼陶板・照明笠間焼協同組合、笹目亮太郎、船串篤司、Kei Condo
稲田石加工稲田石材商工業協同組合、株式会社タカタ
木材加工協力マテリアル(村山元春)
真鍮サイン製作富士産業(杉本秀樹)
写真楠瀬友将 、HAGISO(末吉祐太)

メディア

TECTURE

PEOPLE

携わる人たち

宮崎 晃吉

HAGISO | 代表取締役

小さな山頂の公園と休憩所がエリア全体の山岳ツーリズムを変えるテコになる、ということを考えています。

田坂 創一

HAGISO | 設計部門マネージャー

久保田 啓斗

HAGISO | 設計士

改修、新築(増築)、公園工事のほかグラフィックや運営計画などが同時に進む盛りだくさんのプロジェクト。建築は小規模ながら、斜面地での施工や地場産業の扱いなど技術と工夫が凝縮した空間となりました。

朱 則安

HAGISO | グラフィックデザイナー

子どもから大人まで楽しむ公園マップを目指して、ポップでわかりやすいデザインをしました〜!

末吉 祐太

HAGISO | グラフィックデザイナー

ピクニックがしたいです!

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