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小さな操作でエリア全体に働きかける

茨城県笠間市の山頂に位置する斜面をもった公園のリノベーション。既存の休憩所や遊具を利用しつつ、ちょっとした増築や改修を行うことでそれぞれの要素を結びつけ直しています。ひいては、公園だけでなく周辺の山岳ツーリズムも巻き込んだ、エリア全体のリノベーションプロジェクトへ続いています。

公園と山岳ツーリズムのリノベーション

茨城県笠間市の愛宕山山頂付近に広がる斜面公園「あたご天狗の森」は、天狗伝説や桜の名所として近隣住民に親しまれるとともに、山頂に約100台の駐車場を備えることから、背後に続く鐘転山・難台山を抜けて吾国山に至る山岳縦走コース「笠間アルプス」の入口としても機能しています。

一方で公園内の既存の休憩施設や遊具は築20年を経過していたため、修繕のほか、愛宕山および周辺エリア全体のなかでの位置づけを再定義することが求められました。私たちはこの本来のポテンシャルを活かすため基本計画のプロポーザル時より本公園を「心も体も切り替わる中継地点」と位置づけ、地域住民の憩いの公園としての役割と、山岳アクティビティを中心とした観光拠点としての役割を両立させる提案を行いました。

建築も公園のランドスケープもすでにある環境を読み替え、ちょっとした操作でつなげていくことでより大きな成果を生む試みです。

山岳アクティビティを最大化する3棟の建築と開かれたテラス

公園全体の拠点となる建築は、平屋の木造建築2棟の改修と、これに連なる形で鉄骨造のcafe棟と円弧テラスを増築した、3棟構成です。増築したcafe棟では軽飲食の厨房を設けて休憩所の入口としての機能を拡張しました。9席の室内席のほか公園の一部として常時出入りできる円弧状のテラス席を設け、既存のテラスでは前面の木立に阻まれ得られなかった絶景を享受できます。

info/shower棟には既存施設がもつ山岳案内の情報スペースに加え、ハイキングの帰りに汗を流せるシャワーテラスを設えました。workshop棟は県内外からの会議・研修といったワーケーションや展示などを想定した設えとし、山の利用者層・滞在時間の拡充を意図しています。

異なる架構による2層構成の鉄骨造

斜面と1階レベルの間には耐震ブレース付ラーメン構造による基礎的な架構を設け、その上部に小径の断面で構成した軽快な架構が載る2層構成の鉄骨造である。1階レベルには片持ちの鉄骨梁によって支持された円弧状のテラスが、斜面側に最大3.64mオーバーハングする。一見不釣り合いにみえる形態だが、テラスの固定荷重がウッドデッキなのに対し、合成デッキスラブが配置された室内は駐車場側にも1.82m跳ね出しているため、重心が建物の中心に一致する。1階の軸組はブレース構造であるが、開口部においては腰壁内にブレースを配置し、その上部は片持ち柱とすることで面内方向の水平力に抵抗する。切妻屋根は桁方向に5本並べたH-125×125によって、最大7.28mのスパンと3.64mの跳ね出しを支持している。このH鋼の下部から垂木45×90@303を吊ることでH鋼の存在を消し,垂木のみによる木質天井とした。(坂田涼太郎)

斜面という環境を遊具にする

既存の公園ランドスケープに用いられている円弧のモチーフを斜面状の敷地全体で展開させました。
公園には既存の休憩施設とローラーすべり台などの遊具が点在していましたが、公園としての魅力を高めるためには単体の遊具を付加するのではなく、斜面の公園全体が遊具になるような仕掛けが必要であると感じました。そのため、既存の休憩施設に一部増築して新たな視点場を設けたり、斜面の中に張り出し浮かぶデッキや傾斜を利用した幅広の滑り台を点在させたり、ローラーすべり台の出口からの道のりをつなぐようなステップ遊具を追加するなど、それぞれの操作は小さくても全体としての一体性を生み出す操作を行っています。

斜面の中では滑る、転がる、1段のぼる、といった小さなアクションで視界が大きく変化し、全身で地形を感じられるという、大人でも思いがけない発見があります。ここでは子どもたちによる更に発見的な遊びが生まれることを期待し、従来のように遊び方が定まった公園遊具ではなく、斜面全体を遊具と捉えるための補助線となる設えを探りました。

笠間の工芸と素材の結節点としての建築

観光振興の一環として近郊で採れる稲田石や八溝杉、地場産業である笠間焼を建築の内外装に取り入れています。小さな空間のなかで個性ある素材同士を調和させるため、簡素で土木的な納まりによってぶつけることで、公園側の土木工事との一体感を狙いました。

グラフィックデザイン

ATAGO FOREST HOUSEの施設ロゴは、山頂の爽やかな風を受ける3つの屋根形状のほか、愛宕山に連なる難台山、吾国山の3つの山の姿も重ねました。
園内に設けたエリアマップには、計画した建築や遊具のほか、斜面から見える景色、周辺施設、山岳案内のイラストを円弧状のステンレス盤内に網羅しています。全体に鮮やかな色を使い、丸みのあるイラストから可愛らしさを感じられ、歩行者通路の縁石に接して設置したことで、老人や子供も一緒に見やすいサインとなりました。

ATAGO FOREST HOUSEの施設ロゴ
エリアマップ
パンフレット

概要

竣工2024年3月
基本計画2021年12月〜2022年3月
設計期間2022年6月〜2023年3月
施工期間2023年8月〜2024年3月
所在地茨城県笠間市
用途公園、休憩所、飲食店
構造既存:木造、増築:鉄骨造
規模地上1階
公園面積1.86ha
建築延床面積94.10㎡
種別リノベーション

体制

クライアント笠間市 観光課
設計HAGISO(宮崎晃吉、田坂創一、久保田啓斗)
グラフィックデザインHAGISO(朱則安、末吉祐太)
構造設計坂田涼太郎構造設計事務所(坂田涼太郎)
機械設備MOCHIDA建築設備設計事務所(持田正憲)
電気設備大瀧設備事務所(大瀧牧世)
ランドスケープ風景堂プランニング(横川洋也)
照明計画DAISUKI LIGHT(大好真人)
協力石川初、新堀学、高瀬幸造
施工(建築)大枝建設(大枝輝生)
施工(公園)柴山土建(柴山正之、長谷川厚生)
笠間焼陶板・照明笠間焼協同組合、笹目亮太郎、船串篤司、Kei Condo
稲田石加工稲田石材商工業協同組合、株式会社タカタ
木材加工協力マテリアル(村山元春)
真鍮サイン製作富士産業(杉本秀樹)
写真楠瀬友将 、HAGISO(末吉祐太)

メディア・書籍

新建築2024年11月号
TECTURE
architecturephoto
designverse
書籍「地域とつながり、生まれるデザイン」(BNN、2025.02)

PEOPLE

携わる人たち

宮崎 晃吉

代表取締役

小さな山頂の公園と休憩所がエリア全体の山岳ツーリズムを変えるテコになる、ということを考えています。

田坂 創一

アーキテクト

山の上で星空を眺めると気持ちいいです。

久保田 啓斗

アーキテクト

改修、新築(増築)、公園工事のほかグラフィックや運営計画などが同時に進む盛りだくさんのプロジェクト。建築は小規模ながら、斜面地での施工や地場産業の扱いなど技術と工夫が凝縮した空間となりました。

朱 則安

グラフィックデザイナー(元スタッフ)

子どもから大人まで楽しむ公園マップを目指して、ポップでわかりやすいデザインをしました〜!

末吉 祐太

グラフィックデザイナー

ピクニックがしたいです!

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