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HAGISOが設計を担当した「BERTH COFFEE みなとみらい」が2024年8月、神奈川県横浜市に竣工しました。
この店舗を企画・運営するのは、都内を中心に宿泊施設や飲食業を展開している「Backpackers’ Japan」。同社のコーヒーブランド「BERTH COFFEE」の3軒目の実店舗であり、高層複合ビルのリニューアルを記念するカフェとして、華々しいオープンを遂げています。約75平米の店舗部分と隣接する施設内の共用テラスが一体的にデザインされているのが特徴です。
今回は「BERTH COFFEE ROASTERY みなとみらい」を訪れたHAGISO・宮崎晃吉と前芝優也が、クライアントであるBackpackers’ Japanの藤城昌人さん、 石崎嵩人さん、西村結衣さんとこれまでを振り返りました。竣工から1年余りが経ったいま「BERTH COFFEE みなとみらい」の現在地についてうかがいます。
Backpackers’ Japan
藤城昌人さん(代表取締役)
石崎嵩人さん(取締役)
西村結衣さん(BERTH COFFEE 事業責任者)
HAGISO
宮崎晃吉
前芝優也

宮崎:HAGISOとBackpackers’ Japan(以下、BJ)のなれそめは、ホステルの2軒目である「Nui.」からでしたよね。Nui.の開業が2012年9月頃で、HAGISOも2013年3月と同時期に始まっていて。そこで当時のHAGISOスタッフがイッシー(石崎さん)と知り合って、関係がはじまっていったんですよね。
石崎嵩人さん(以下、石崎):もしかしたら一番最初は、僕がHAGISOに行ったからかも。そのあと、HAGISOの社員さんたちで“研修合宿”と称してNui.に泊まりに来てくれたんですよね。
宮崎:ちょうどその頃、僕らもhanareを画策していたので、宿のイロハを教えてもらおうとしてたんです。で、我々の関係もそこから干支が一周回るくらいの時間が経ちましたが、そのあいだにあいちゃん(藤城さん)がBJに仲間入りして。
藤城昌人さん(以下、藤城):はい、僕がBJに入社したのが2014年で、BJの代表になったのが2020年頃ですね。その前の2019年頃に宮崎さんとお会いしてから、宮崎さんが設計を担当していた別プロジェクトの現場に呼んでもらったこともありましたよね。

西村結衣さん(以下西村):私が2018年入社で、そこからロースタリー(焙煎事業)の立ち上げにかかわりながら「BERTH COFFEE」ブランドにジョインし始めていきました。
宮崎:で、前芝君が――
前芝:HAGISOに2023年9月に入社しました。
宮崎:そうそう。この「BERTH COFFEE みなとみらい」が入社直後のプロジェクトだったんだよね。
宮崎:そんなご縁があってプロジェクトが始まっていきましたが、そのまえに、コーヒーブランドである「BERTH COFFEE」は、どう誕生していったんですか?
石崎:東日本橋の馬喰町にある僕らの4軒目のホステル「CITAN」の立ち上げと同時なので、2017年3月からですね。CITANのエントランスはちょっと突き出た特徴的なつくりになっていて、そこを“埠頭”の景色を重ねて、併設するコーヒースタンドに「BERTH(=船の停留所) COFFEE」と名付けたのが始まりです。
宮崎:これまで複合的にカフェが併設していて「BERTH COFFEE みなとみらい」が、初のカフェ単体での店舗だったんですよね。BJはホステルやゲストハウス、バーラウンジや焙煎事業などさまざまな事業を手がけていますけど、そもそも、これまであまり縁の薄かったみなとみらいエリアにお店を持つことになったのはどうしてですか?
藤城:きっかけはCITANのBERTH COFFEEに、このリーフみなとみらいビルを所有する法人の社長さんが、お客さんとしてコーヒーを飲みに来てくれていて。ビルのリニューアルのタイミングで、カフェテナントを募集しているからと声をかけてもらったところからスタートしています。
宮崎:いまあるお店がきっかけになって、また次のご縁につながっていったんですね。

藤城:そうですねえ。実はその時点で、僕はまだ社長さんにお会いしたことがなかったんです。CITANの宿泊受付に座っているスタッフへ「ぜひこのホテルの社長にこの名刺を渡してくれ」という、まさかの言付けからスタートしているんです、面白いことに。
話を聞いていくと、どうも社長さんだけでなく社員の方々もCITANに遊びに来てくださっていたみたいで、僕たちの知らないところで「ここ、いいですよね」って声が社内からも上がっていたらしいです。
宮崎:純粋にBERTH COFFEEが好きだからお話をくれたってことじゃないですか! 人と人が関わり合う場で仕事をしていると、そういう“ご縁ベース”で、きっかけが向こうからやってくることってありますよね。
HAGISOへの依頼も、これまでのご縁から、石崎さんから連絡をもらったんですよね。これまで、BJがHAGISO以外で設計事務所へ依頼したことはありましたか?
藤城:空間デザインを依頼したことは過去何回かありましたが、建築を専門とする方へ真っ正面から依頼したのは、HAGISOが初めてかもしれません。
宮崎:なるほど。なぜ依頼してくれたのか、言語化が難しいかもしれないんですが……もしかして、ノリですか……?
藤城:すごくざっくりいうとノリかもしれない……いやいや! 飲みの席での宮崎さんは「いい兄貴分」みたいなイメージがあって、いつかは「建築士としての宮崎さん」とご一緒してみたいなと思っていました。だから、そのタイミングが来たのがここだったのかなと。

宮崎:飲み友達と仕事をするというのはちょっと難しい命題ですよね。仕事ってなにが起こるかわからない、どうしても折り合わないこともあるから。そのあたりはなにか予見していたんですか。
石崎:最初からその危惧はありませんでしたね。むしろ宮崎さんとならうまくやれそうだなとすら思ってた気がする。
宮崎:僕らも仕事をするうえでは「仕事」と割り切るよりも、お互いの人柄を知っていて、基本的な信頼関係ができていると、すごくやりやすいです。

石崎:依頼の前提として、BJはこれまで大工さんと店舗をつくることが多かったので、ここで一度、建築やデザインを専門にしている会社と組んでみたいと思っていました。そうすることで、数十年と事業を続けていくときに、今後のことも相談したり頼みやすくなったりするのかなと。
あと、ここは高層複合ビルで、かつ店舗部分と共用テラスがつながっている少し特殊な物件でもあるんですよね。設計のうえでテクニカルな箇所も発生するだろうし、お願いするなら、すでに関係ができていて、なおかつ経験値がある方々がいいだろうと初期から社内で検討していました。
宮崎:僕たちも、お話をいただいて一番最初に、専有部と同じくらい共有部を設計できることが面白いなと思ったし、それがお店のポテンシャルになるだろうと予感していました。
宮崎:プロジェクト開始後、コンセプトづくりから一緒に進めていくことにして、最初はBJ側からこのお店をどうしたいか、コンセプトブックを作ってくれましたよね。
石崎:HAGISO側から「提案を具現化するだけじゃなくて、話しながらいい要素を取り入れていきたい」と持ちかけてくださったから、僕らが運営方針やコンセプトを考えてきて、HAGISOチームと話して持って帰って。HAGISOチームもまた、僕らとの対話から得たものを建築設計へ落とし込んでいってと、パラレルに進んでいきましたよね。
宮崎:そのときに印象的だったのがコンセプトブックに「汀(みぎわ)」や「畔(ほとり)」の水辺の比喩が出てきたことでしたね。店舗が島状になっているイメージは、割と初期から出てきていたんですよね。

石崎:このときに宮崎さんが「いいね」と言ってくれたの、覚えてます。その瞬間に、お互い交換したものがあったんだろうなと思いますね。
宮崎:みなとみらいエリアだから、水際も連想しますしね――。実は僕、こういう比喩をそのまま建築に落とし込むのって100%いいとは思っていないんです。「○○みたいな建築」って度合いを間違えると表現的になりすぎちゃうし、それが人の行動を左右しなかったら、建築のデザインはただの飾りになってしまうんですよね。
だけど、この建物もリニューアルのタイミングで、一回リセットされる。そんな空間のなかでなら、ゼロベースで物語を創ることをポジティブに捉えられるんじゃないか。ここから物語を創って届けるほうが合っているんじゃないか、という気がしていました。
店舗に用いた素材も、真新しい近代建築のなかにつくるものなので、空間に併せて現代的なものをベースにしています。でも、BJのプロジェクトは人の手の痕跡や温度感の要素があるよなと感じて、あえて手触りのある左官材料を選んだんですよ。
前芝:そこへ実際に店舗で出たコーヒー豆のかすを材料として提供してもらって、塗料1kgに対して1~2%程度混ぜ込んでいるので、ほんのり茶色になっているんです。これ以上入れるとひび割れてしまうので、これが限界ですけど。
西村:CITANのBERTH COFFEEの壁と天井にもコーヒー豆が入った左官材料が施されているので、繋がりも感じられますよね。

宮崎:前芝君はBJと一緒に仕事をしてみてどう感じた?
前芝:とてもやりやすかったです。我々が提案するものに対して、良い悪い含めてしっかりリアクションしてくださるから、それに対して応えたいという気持ちがずっとありました。パースを用意して、いくつか案を提案させてもらった際も、正直に感想を伝えてくださったのが嬉しかったですね。
石崎:模型も作ってもらえて、本当に嬉しかったです。テンション上がるなあー! って。
宮崎:これだけCGが普及してどれだけイメージしやすくなっても、同じものをみんなで囲んで見られる模型ってやっぱりすごくいいですよね。みなまで表現しきっていないからこそ、イメージする余地があって、それも想像をかきたてられる要素の一つですよね。
藤城:今なら言える、設計過程で苦労したことがあれば聞いてみたいです。
前芝:ひとつはコスト面でしたね。コンセプトを忘れずに、出来ることはなにかを最初から最後まで一貫して考え続けました。やりたいことを0にするのではなく、踏襲しつつもコストバランスを図って出来ることを探っていくという。
宮崎:大規模施設で防災の関係もあって、設備を整える部分はコスト的にも重かったですね。でもそこを工夫するプロセスで、余計なものがなくなって洗練されていきました。
前芝:最初、島状になっているところのてっぺんに「山」みたいに植物を生やす予定でしたよね。
宮崎:設計しながら「ちょっとやりすぎかな……」って迷っていましたけど、コスト面の関係でバッサリなくなってみると、スッキリするというか、潔く割り切れるというか。
宮崎:お店のオープンから1年が経ちましたが、普段どんな時間が流れているんでしょうか。専有部と共用部をまたぐように、お店と空間がシームレスに繋がっているのが、設計的な推しポイントなのですが、実際、お客さんにはどんなふうに受け入れられていそうですか。
西村:私は基本、土曜日と日曜日にこの店舗にいますが、お昼以降満席が続く印象ですね。あと、共用部分の席の使われ方が日によって全然違います。流動的にお客さんが入れ替わったり、自分たちでテーブルを移動させて自分の体にフィットするポジションで座っていたりもして、「ああ、今日はここにお客さんが座っていらっしゃるんだ」って。
島の真ん中の丸くなっている座席なんか、2人で贅沢に使う日もあれば、もうぎっちぎちに10人くらいで座っているときもあって。この間なんか、おばあちゃんたちが10人くらい座っていて、その光景がすごく面白かったです。

西村:導線が変わるからちょっと動きにくいときもあるのですが、なんだかそれも含めて面白い。専有部側のテーブル席はご年配層やファミリー層が、共用部側は水辺に出ていくコンセプトのとおり自由な感じで、ご友人同士のお客さまも多いです。
宮崎:時間帯や曜日によって使われ方が変わることもありますか?
西村:朝はかなり常連さんが来てくださって、お昼以降はお買い物に来た方々や、海外から出張に来ているような方も多く滞在してくださっている印象ですね。
あと、みなとみらいエリアなので、土日は近隣の大型イベントによって客層がとても左右されます。ライブのときはファンの方々が来てくださったりと、その日によって雰囲気が変わります。普段あまりコーヒーを飲まないようなお客さんが、イベントの折りにたまたま立ち寄ってくれて。そこで「コーヒー、すごく美味しかったです」というリアクションをもらえると、こういうかたちでスペシャルティコーヒーに触れあえる場所がつくれたんだなあ、といい手応えがあります。
宮崎:いわゆるコーヒー愛好家にコーヒーを提供する場所というより、新しいコーヒーとの出会い方を生み出す場所として、お店としても喜びを感じている……ということですね。

宮崎:この共有部は公共空間だから、正確にいえば、自分で買ったものやお弁当を持ち込んでもいいエリアではありますよね。その使われ方のバランスはどうですか? 自由すぎる使われ方なのか、そうではなくお店の秩序が守られるのか。
西村:お店の一部として持ち込みに関してお控えいただくこともあるんですが、そもそも持ち込まれるパターンが少ないように感じます。
宮崎:ちょうどよくオーナーシップが効いている「ひらかれた場所のよさ」みたいなものがあるんですね。緊張感までいってしまうとちょっと堅苦しいですけど、心地よいオーナーシップをどう生み出していくかは、最初のコンセプトのときから議論していたテーマですよね。
石崎:宮崎さんはそれを“アメリカの友達の友達のホームパーティ”くらいの「あ、行ってもいいのかな」みたいな感じだって形容していましたよね。
宮崎:そうそう。なんだかそういう独特の表現の言葉にドライブされていく瞬間が、このプロジェクトでは度々あった気がする。

宮崎:こうして一緒に空間をつくりましたが、建ったらおしまいでなく、ここをBJの方々がどう育てていくのか、僕らもこれからを楽しみにしています。そこでの発見をこうして共有してもらえると、僕らの気付きにもつながりますし、設計冥利につきます。
西村:BERTH COFFEEには、多くの人にスペシャルティコーヒーを飲んでもらいたいという夢があります。私たちは直接生産者のもとを訪問してコーヒー豆を購入しているんですが、とても美味しいコーヒーなのに、コーヒー豆ビジネスの歴史上、生産者は貧しい方も多いのが現状です。
私たちがスペシャルティコーヒーを飲んでもらう機会を店舗を増やしてつくることで、生産者の方々の生活も安定して豊かになって、日本にいる私たちも美味しいコーヒーが飲める。そういうWIN-WINな世界を、まずはここからつくっていけたらなと思います。
構成・執筆:遠藤ジョバンニ
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